電話を切ってからきっちり30分後、来客を知らせるベルが鳴った。毛利邸は門にも鍵が掛かっており、隆房は一度車を降り、チャイムを鳴らしてから再び車内に乗り込み門が開くのを待った。 一人のメイドが隆元の部屋のドアを叩く。 「隆元様、陶隆房様がいらっしゃいました」 「ありがとう、すぐに行くと伝えてください」 すると他のメイドが門を開ける為に玄関に向かった。門を開くためのスイッチは玄関にある。門が開くと、隆房は車を走らせ毛利邸の玄関口に着けた。 隆元は、昔、元就に憧れて買った長時間の録音が可能なボイスレコーダーをスラックスのポケットに忍ばせ、革製のショルダーバッグを持つと、それに似合ったカジュアル目な革靴を履き、玄関のドアを開けた。 隆房は車から降り、助手席のドアを開けて待っていた。 「入り口で随分待ちたされましたよ、『毛利さん』」 「弟たちには見られたくありません、早く行きましょう」 「どうぞ」 片手で隆元をエスコートし、ドアを閉める。隆房自身も運転席に乗り込むと、表情が一変する。 「随分と積極的だな、隆元」 シートベルトを締め、毛皮の張ってある座席に身を任せる。二つ、大きく深呼吸をしてからも、隆房の方を見ることは出来なかった。 「夕食は19時ですから」 「今15時だから…十分だな」 「―――っ!?」 まだシートベルトを締めていない隆房が身を乗り出し、隆元の顎を掴むと強引に口付けた。まさか自分の家の敷地内で事に及ぶとは思ってもいなかった隆元は、驚いて目を見開く。乱暴に口がこじ開けられ、舌が無遠慮に入り込んでくる。絡め取られ、吸われる。止めてほしくて肩を押すが、隆元の貧相な身体では力負けしてしまう。漸く離れて行った頃には、隆元の息はすっかりあがり、タートルネックのシャツに唾液の染みを作っていた。 元春と隆景はリビングの窓から隆元たちの様子を見ていた。しかし、スモークの貼ってある窓から、車内を窺うことは出来ない。いつまで経っても発進しない車。二人が心配そうに見守る中、弟たちが覗いていると言うことを知っていた隆房は車を発進させた。 「貴方が二重人格者だとは思いもしませんでした」 「二重人格者?私が?面白いことを言う。貴様の口からそんなジョークが飛び出すとは思いもしなかったな」 隆元の嫌味など、これっぽちも堪えていないと言った様子で笑い返される。「貴様」呼ばわりされた隆元は、少しムッとしたが、これ以上隆房を不機嫌にさせるのは得策ではないと、黙って窓際に手を突き、サイドミラーに映る景色を眺めていた。 「ラフな格好は初めて見ましたがよく似合ってらっしゃる。それに……」 車が赤信号で停まった。 「上手に隠している」 隆房が隆元の首に手を掛け、シャツの首元を無理矢理引っ張った。未だ赤味を保ったままの痕が晒される。 「やめて…ください」 抵抗する隆元の声は弱々しい。俯く隆元に追い打ちを掛けるようにその痕に触れた。 「今日はもっと色々な場所に付けてさしあげましょう」 隆房が意地の悪い笑みを浮かべたとき、信号が青に変わった。 「着きましたよ」 「分かってます…」 発言だけは強気な隆元だが、相変わらず口調は弱々しい。隆元は小さな抵抗で、車から降りないでいた。すると隆房は何も言わずに助手席側に回り、ドアを勢い良く開けると、隆元の腕を掴み捻り上げた。 「い、痛いっ」 そのまま車外へ引き摺り出される。隆房は後ろ手にドアを閉めると鍵を掛けた。 「おとなしくしていれば調子に乗って…いい加減にしろ」 「は、離してください…!」 手を捻られたまま引き摺られるようにしてエレベーターホールまで連れて行かれる。漸く隆房を振り払った隆元は捻られた右腕を庇うようにして抱き締めた。 「今日は容赦しないぞ」 あれ以上どう容赦しないと言うのか。隆元には皆目見当も付かない。矢張り引き摺られるようにエレベーターの中に連れ込まれると、最上階へと向かった。 帰ったときには気付かなかったが、隆房の部屋は高級マンションの最上階だった。そう言われればあの僅かに見えた絶景も合点が行く。エレベーターが動いている間、暫く沈黙が続き、隆元は遺児でも喋るまいと唇を噛み締めていた。すると、隆房が隆元の腰に腕を回し自分の方に引き寄せる。一瞬よろけた隆元だが、右腕を離してバランスを取ると、隆房の腕の中に納まった。握り拳を作り、手を下へおろす。観念したと思ったのか、隆房の手が隆元の指に絡められた。隆元の腰を半周して、右手と左手を繋ぐ。おとなしくされるがままにしていると、気を良くしたのか、隆房は隆元の指を弄び始めた。そして隆房の細長い指が、隆元の指の股を撫でたとき、エレベーターが最上階に到着した。 数部屋しかない最上階は、展望が良く、隆元は思わず窓に張り付いた。 「はめ殺しとは言え、あまり窓に近付いては危ないですよ」 再び隆房の手が隆元の腰に回る。名残惜しそうな隆元に、「私の部屋からでも見えますよ」と言いながら、半ば強引に自分の部屋へ連れ込んだ。 「さて、まずはこれを飲んでもらおうか」 部屋に入ると隆房は豹変する。と言うより、世間体の及ばない範囲に来たときに地が出るだけのようだ。隆元の前では素の隆房が顔を見せる。オートロックのドアがガチャリと冷たい音を立てると、狼狽える隆元にキッチンの棚から薄水色の小瓶を取り出し、手渡した。 「あの…これは…」 「俗に言う『媚薬』ってヤツです。特別製ですからね、よく効きますよ」 媚薬。聞いたことくらいはある。性感を高めるために使われる薬だ。しかし隆元の知識はその程度で、まさか隆房の使うものが覚醒剤並みの依存性を孕んでいるとは欠片も思わない。 「全部飲むんですか?」 「四の五の言わずに全部飲み干せばいいんですよ。でないと辛いのは貴方だ」 一見すると栄養ドリンクのような媚薬の瓶を開け、軽く匂いを嗅ぐ。ほんのり甘い香りが鼻を突く。コレを飲むから自分は乱れるのだと言い聞かせ、隆房の好色そうな視線に耐え、一気に飲み干した。 最初はこんなものか、と言うのが率直な感想だった。しかし。 「あ…」 「さすがに即効性があるな」 クラリと眩暈を感じ、テーブルに両手を突くと、背後から隆房が覆いかぶさってきた。耳朶を甘噛みされると、全身が総毛立つ。素面で抱かれた時とは比べ物にならない程の快感に、隆元は素直に媚薬を飲んだ事を後悔した。下半身が疼く。これは確かに怖気ではなく快感なのだと確信する瞬間だった。スラックスの上から股間を揉みしだかれる。 「何だ?耳を食まれただけで勃っているのか?淫乱だな」 「ち、ちが…あっ、やめ…っ」 隆元の陰茎は隆房の手によって確実に勃起させられていた。スラックスの下のトランクスは、先走りで湿っていた。トランクスの中の不快な湿気に眉を顰めるが、それは隆房にしてみれば快感に顔を歪めているようにしか見えない。実際それも大きかった。頬を紅潮させ、目は潤み、全身が火照ってくる。隆元は理性を保つことが困難になってきていた。 その時、フッと隆房の手が隆元から離れる。 「あ……」 その小さな呟きは明らかに落胆だった。どうしてここまで高めておいて放っておくのか。その疑問はすぐに解決される。 「自分の手で全部脱げ」 「全、部…?」 「続きが欲しいのだろう?俺が欲しいんだろう?だったら全部脱ぐんだ」 「陶さん…っ」 キッチンからベッドルームに連れて行かれる。 隆元は躊躇いがちにシャツを脱ぐとベッドサイドに脱ぎ捨てた。次いでスラックス。手が震えて思うようにベルトが外せない。もたついていると、隆房から怒声が飛んだ。 「何をもたもたしている。早くしないか」 「す、すみませ……っ」 いらついた隆房が隆元の頬を叩く。全ての感覚がシャープになっているのか、通常よりも何倍も痛く感じた。隆房もそれを分かっていて軽く叩いたのだろう。少しでも効果があると踏んだのだ。 やっとの思いでベルトを外し、スラックスと靴下を脱ぐ。今隆元が身に纏っているのは染みの付いたトランクスだけ。暖房が効いているおかげで暖かい室内。その空調の風すらも快感に変わり、先走りは溢れるばかりだ。止めどなく溢れるそれを、どうすることも出来ずに、隆元は立ち尽くした。そして再びの平手打ち。今度はさっきよりも強く叩かれた。 「何を躊躇う?お前の望む快感が手に入るのだぞ」 「あ…」 隆房が着ていたシャツを脱ぎ捨てると、それなりに引き締まった身体があらわになる。それを見た隆元は一瞬息を呑み、その後チラリと隆房の股間に目を遣る。 あの中に潜むモノが自分の中に入ってくるのだ。下着さえ脱げれば。挿入され、不覚にも感じてしまった快感が脳裏を過る。素面でアレだけの快感だったのだ。薬を飲んだ今ならば、どれ程の快楽が隆元を待っているのだろう。 薬で麻痺した思考は、自然と快楽を求める。散々躊躇った挙句、隆元はトランクスを脱いだ。隆房は、あの量を飲ませてもこれだけ理性が働くのならば、もっと飲ませれば良かったと軽く後悔した。最初に大量に飲ませて依存させてから、じっくり焦らしてやろうと思ったからだ。 まぁいい。薬だけが手段だけではない。いざとなったら非合法ドラッグも辞さないつもりの隆房は、スラックスを脱ぎトランクスから陰茎を取り出した。ベッドに腰を下ろすと、隆元に跪くように顎で示した。 「あ、あの…」 身体が熱くなっている隆元は、しとどに先走りを垂れ流しながら、隆房の足の間に跪いた。 「何をすれば良いかわかるだろう」 少々鋭めの口調で言ってやると、怖ず怖ずと隆房の陰茎を掴む。目を閉じて、思い切ったように口に頬張った。初めてのフェラチオは口の中に広がる苦味と、隆房のモノを銜えていると言う不快感。そして背徳感。嫌悪感。様々な感情が渦巻く中、隆元は必死に怒張を吸った。 「このヘタクソが」 奥手な隆元は、女性にされた経験も皆無に等しいのに、どうしていいのかイメージも湧かない。マスターベーションもたまにしかしないから、快感を得られる箇所もイマイチよく分からない。隆房が隆元の髪を鷲掴みにして半分勃ちかけた陰茎を喉の奥まで捻じ込む。 「むぐっ!?」 そのまま隆元の頭を激しく振り、自らの性感を高める。隆元がえずいてもやめようとはせず、歯が当たると髪を力任せに引っ張った。 「んんーーーっ!!」 「歯を立てるな、口を開けてろ」 ぼんやりする意識の中で隆元が感じていたのは快感だった。言われるがままに口を必死で開き、舌を裏筋に当てながら口内を蹂躙する陰茎に耐える。いや、隆元はこの行為にまで快感を感じてしまっているから耐えると言うのはおかしいだろう。陰茎はほぼ直角に勃起し、相変わらず先走りを零している。それは糸を引いて絨毯に落ちるほどだった。 「本当にいやらしいな、薬なんか要らなかったんじゃないのか?」 そんな気持ちは更々なく、薬漬けにしてやろうとしているのにこの台詞だ。 隆房は隆元の喉の奥に射精し、飲み下すまで頭を固定したままでいた。すると、何度かえずいた後、漸く飲み込むことに成功し、それを確認してから手を離してやる。 「あんなに酷くされたのにこんなにしているのですか?」 いつもの優しい声音で囁かれると、身体の芯が爆発しそうに熱くなった。陰茎がピクンと脈打つ。腕を引かれ立ち上がらされると、大きく足を開いた隆房の腿が腹に当たるような格好で俯せにさせられる。隆房のスラックスに陰茎が当たり、透明な染みを残す。普段の隆元ならば、確実に謝っていただろう。しかし今の隆元にはそんな余裕も理性も残されてはいなかった。 「陶さん…あ、触って…ください…」 「どこを?」 「そ、その…股を……」 消え入りそうな声で呟き、ベッドに顔を埋めてしまった隆元を、隆房は素直に可愛いと思う。 「股?尻の間違いでは?」 そう言うと、ベッドサイドの戸棚から隆元が飲まされたの物と同じ色の器をした軟膏を取り出し、たっぷりと指に纏わせた。 「私はあのピンク色のいかにもな入れ物が嫌いでしてね」 隆元が両手を突いて顔だけ振り向こうとする。すると隆房は左手で隆元の髪を鷲掴みにし、無理矢理上を向かせると、軟膏を纏わせた右手を、何の躊躇もなく隆元の肛門に捩じ込んだ。 「こうするとよく締まるでしょう?」 「あ、あぁ、あ…っ!」 隆元の短い髪を掴んで頭を上下に揺さぶる。そうしながら挿入した指を激しく動かすと隆元は痙攣を始め、短い喘ぎだけが口を突くようになった。ブチブチと掴んだ髪が数本切れてベッドに落ちた。それでも隆元の中にあるのは快感で、唾液を口の端からはしたなく垂れ流し、ベッドを汚した。隆房もそれを気にした様子はなく、隆元の乱れる様を好色そうな笑みを浮かべながら眺めている。 三本目の指を挿れようとするとさすがに痛がり藻掻くが、隆房はそれを許さず、髪を離し尻たぶを押し広げ、無理矢理三本目の指を捩じ込んだ。 「あ゛、あああっ!」 隆元はその激痛の中で達した。陰茎を勃起させたまま、トロトロと止め処なく溢れる精液は隆房の腿を汚す。 「痛いのにイったのか?とんだ淫乱だな。え?隆元」 「いた…痛い…っ」 「本当はイイんじゃないか?」 この淫魔が。そう囁く隆房の声が、隆元の痛みを蕩かしてゆく。ゆっくりと指を動かされると、次第に快感が襲ってきた。肛門が切れるのも構わず、隆元は喘いだ。 「あっ、あ…陶さ…っア!」 隆房は、あろうことか指を窄め、全ての指を隆元の肛門に押し込もうとした。催淫効果のある軟膏のおかげで、隆元にはさしたる負担もなく隆房の手がすっぽり入ってしまうと、体内で握り拳を作り動かし始めた。 「やぁ!あ、あァ!」 腸壁全体を節くれ立った隆房の拳が擦る。それでも隆元は苦痛に似た快感に喘いだ。陰茎の先端からは精液がだらだらと溢れ続けたままだ。 「この淫乱め」 「ちが…あぁ!」 一仕切拳が隆元の体内を犯し切ると、隆房は入れた時とは逆の手順で手を引き抜いた。半透明になりかけていた精液は漸く止まり、隆元は肩で荒く呼吸する。 「あ、…あぁ…ア…は…」 「舐めろ」 自らの腸液に塗れた手を突き付けられる。普段なら絶対に拒否していただろうが、隆元は素直に舌を出した。ミルクを与えられた子犬のようにペロペロと舐める。隆房の、征服欲に満ちた視線が、隆元を見下ろしていた。舐めながらも唾液はだらだらとベッドを汚していく。時折その唾液をもジュッと吸い上げ、気休めにしかならない掃除をした。 「恥ずかしくないのか?そんな無様な格好で」 「恥ずかしい…です…」 久方振りに普通の言葉を口にした隆元の声は、激しく喘いだおかげで、ほんの少し枯れていた。 「でもスるのですね」 空いた方の手で隆元の柔らかい髪を優しく撫でる。薬で敏感になった身体には、それすらも刺激になるようで、ぴくんと身体を震わせた。 「………気持ち…イイです…」 隆房の顔が悦楽に歪む。堕ちた。これから先、隆元は自ら隆房を求める事になる。そんな予感を抱きながら、まだ媚薬の効果の残っていて眠れない疲労困憊の隆元に睡眠薬を飲ませ、眠らせた。翌朝、隆元は意識をはっきりと保ったまま、今宵の出来事を思い出すことになる。そして、身体は隆房を求めるのだ。何度も、何度も、隆房が満足するまで。 戻る |