「フェリース・ナターウ!!」 クラッカーと呼ばれる玩具を盛大に慣らしながら秀包は現れた。全身赤い襦袢に白い綿をあしらった不思議な格好をしている。 「なんだよ、そのへり何とかって」 それより昼間っから赤い襦袢なんて誘ってるとしか思えないだろ。その変なモコモコはナシとしても。 統虎は心の中で呟くと、秀包を見据えた。 「虎は発音が下手だなぁ…ナターウってのはイエス様の誕生日なんだよ」 「誰だよ、いえす様って」 「か、み、さ、ま」 「はぁ?」 統虎は、さっぱり分からないと言う顔で秀包を見詰める。しかし、その裏ではどうやって犯してやろうか画策を巡らせる。年中こういう事ばかり考えている訳ではないが、秀包の戦場とは掛け離れた可愛らしい姿を見る度に、疾しい妄想に頭を膨らませてしまうのだ。 「神様、お誕生日おめでとうってこと」 「神様を祝うのか、それでそんな格好を?」 「うん、親父に頼んで作ってもらっちゃった」 俺に抱かれに来たのではないのか。などと、相変わらず的外れな事ばかり考える頭は、止まるところを知らない。またケーキだ何だと言う前に襲ってやろうと腰を上げる。ところが。 「虎、虎がシたいコトはよーく分かってるから」 「え?」 「今日は俺がスるから!」 統虎は自分の耳を疑った。そして次に取った秀包の行動にも目を見張った。 するりと襦袢を脱ぐと、それだけで驚きだと言うのに、その下は真っ赤な紐で亀甲縛りにされていたのだ。 「だ、誰にされたんだよ!」 「親父が、『お虎はこーゆーことが好きなんだよ』って。でもなんでこんな縛り方知ってんだろな?」 親父殿…統虎は頭を抱えた。こんな状態で秀包が「シてくれる」とは言っても、秀包の感じる時間でされては身が持たない。さっさと押し倒して犯してしまいたいところだが、そこをグッと堪える。 「お、おう、まぁ嫌いじゃねぇけどな」 「親父とはよく風呂にも入るから裸になるのは抵抗はなかったんだけど…」 此処へきて秀包が口籠る。 「俺、縛られてる最中にタっちゃってさ、スゲー恥ずかしかった。虎の前でだけって決めてたのに」 よたよたと統虎の腕の中に秀包が収まる。 「ねぇ、紐が擦れると気持ちイイんだよ…?」 胡坐をかいた統虎の足の間にすっぽりと座り直すと、後ろ手に統虎の陰茎を褌越しに弄り始めた。秀包が被虐趣向に目覚めたのは間違いなく統虎の所為だ。後ろから縄の間から絞り出されている乳首を指先で嬲る。 「あ、あンっ」 いつもと同じ嬌声。しかし今日は秀包は真っ赤な縄に彩られている。それが酷く官能的で、統虎は大きな目を細めた。そして秀包はその統虎よりも更に大きな目を見開き、胸を襲う快感に、陰茎を勃起させた。 「とらぁ…終わったらまたケーキ食べよ…?」 「お前けーき好きだな」 言いながら統虎は秀包の乳首を一度強く抓る。 「いっ、虎と、親父の、次にね…」 「俺は甘いから苦手だけどな、お前なら甘くてもイイけど」 秀包が不自由そうな動きで後ろ手に統虎の褌を緩め、ずらす。そこからはいきり立った陰茎が飛び出し、秀包の尻を叩いた。 「もうビンビンじゃん」 「お前がそんなカッコしてっからだろ」 「一回ヌいとこ」 語尾に音符でも散らしそうな勢いで秀包は統虎の膝の中から逃れ、振り向くとその陰茎を小さな口一杯に頬張った。太く、長い陰茎を舌で嬲り、頬の裏で愛撫する。口で咥え切れない部分は両手の指を使って、丹念に舐めて、扱く。その間、手持無沙汰になった統虎が秀包の耳を弄ると、擽ったそうに身を竦めた。 「ん、む…」 「秀包…っ」 ぢゅ、と淫猥な音を立てて陰茎を強く吸うと、統虎は促されるままに吐精し、秀包はその精液を一滴残らず飲み込んだ。 「うぇ、やっぱ喉に絡むや」 秀包が何度も唾液を口の中に溜めて飲み込むのを、統虎は黙って見ていた。本当なら今にでも押し倒してしまいたかったが、珍しく秀包が「自分でやる」と言うのだから、我慢しようと思ったのだ。しかし、秀包が口内の苦さに耐えかね舌を出すと、まだ僅かに白く精液が付着しているのが分かった。 「お前、エロいぞ…」 それを見た統虎の陰茎が、再び首を擡げる。首から伸びた縄の結び目を掴み、強引に引き寄せ口付ける。やはり苦い。しかし、それ以上に秀包の唾液が甘く感じた。秀包は、くらくらと目眩を起こしそうなくらいに官能的で、可愛らしくて、宗茂は自制の限界を感じた。秀包を押し倒すと、頭の両側に膝を付けさせ、全てが丸見えの体勢にさせた。この体勢も慣れっこなのか、秀包は羞恥に顔を赤らめたが、それ以上の事はしなかった。ただ。 「今日は俺がスるって言っただろ!」 当然の罵声。しかし。 「もう我慢出来ねーんだよ」 統虎が秀包の肛門に舌を這わす。堅く閉ざされたそこに、長く伸ばした舌を何度も押し込み、唾液を流し込む。 「んあっ!」 頃合いか、と指を挿し込むと秀包の口から甘い声が溢れた。この体勢では前立腺を責める事は不可能だから、単純に自分を受け入れる準備のための行為だ。指を二本に増やし、ぐちゃぐちゃと掻き回しながら、もう片方の手を秀包の乳首に伸ばす。 「あ、あ、あっ」 息苦しい体勢が余計に快感を増させ、僅かな刺激にも秀包は喘いだ。ひっくり返ったエビのような姿勢にさせられている所為で、呼吸も覚束ない。しかも縄も喰い込んでくる。それでも慣れというのは恐ろしいもので、限界まで我慢してしまい、あられもない声を上げ続けた。 「そろそろイイな…」 漸く舌と指から解放された秀包がぐったりと足を統虎の方に投げ出すと、その足を抱え、勃起した陰茎を柔らかく解した肛門に宛がい、一気に貫く。 「あああ!」 指とは比べ物にならない大きさの陰茎が一気に入ってくるのには流石に慣れない。しかし痛みはなく、激しい圧迫感と快感だけだった。腰を掴まれ揺さ振られる。途切れ途切れの嬌声を上げながら、秀包はされるがままになってしまった。 「なたーうとやらに俺に犯される気分はどうだよ?伴天連は禁止なんだろ?こーゆーの」 「や、やめっ…苦し…アっ!」 弓形にしならされた身体に赤い縄と結び目が喰い込む。それでも尚、快感に喘ぐ。キリスト教徒が男色を禁じているのは当然知っていたし、公然の事実だったから、キリシタンの秀包がこうして統虎と関係を持つのは禁忌の筈だった。それを分かっていながらもお互いを求めあい、身体を重ねるのは、やはり何物にも代えがたい愛情だろう。 揺さ振られたまま、腹筋を使って身体を持ち上げると、秀包の投げ出された手が統虎の首を捕えた。統虎が一度秀包の腰を揺さ振るのを止める。 「顔…見たい」 「お前、それ反則。俺の台詞だろ」 ぜいぜいと荒い息を吐きながら秀包が息も絶え絶えに言うと、統虎が秀包の首筋に顔を埋め、強く吸った。 「可愛過ぎ」 「ば、バカ言うな!」 心底愛おしいと言う風に抱き締めてから、秀包の尻に両手を置き、持ち上げ、突き落とす。筋肉はそこそこ付いているものだから決して軽くはない秀包の身体。しかし、圧倒的な体格差の前では、ただの子供にしか過ぎなかった。だが自分から顔が見たいと言って起き上がってきたクセに、がっちりと統虎にしがみ付き、動かすのも一苦労だ。 「秀包」 若干諌める様な口調で秀包の手を緩ませる。その時、秀包越しに脱ぎ捨てた襦袢の中に小さなロザリオが目に入った。 クソッ。 ほんの時たまだが統虎を拒む事がある。そんな時は決まってこのロザリオを首から下げていた。こんな小さな物の為に。統虎の心の中に小さな怒りが生まれる。しかし、折角珍しく秀包から誘ってきた行為だ。無碍にしたい。 「…虎?」 「何でもない」 ロザリオから目を逸らすと、再び秀包の尻を持ち上げては落とした。自らの体重で奥深くまで突き刺さる楔に、秀包は矢張り縋る様に統虎にしがみ付いてしまう。これではダメだと思った統虎は、秀包を横たえ、そのまま圧し掛かると腰だけを振り始めた。そして激しく腰を振りながらも優しく口付けると、秀包の目を真っすぐに見据えた。 「あ!あ、とらぁ!ん、ぅあ!ふっ!」 口を大きく開けて喘ぐのを、矢張り大きく口を開けて塞ぐ。呼吸すら奪うように。そして限界は訪れる。 「秀包…!!」 「あ…っ」 体内に熱い飛沫がぶちまけられるのを感じ、それを鍵にして秀包も二人の腹の間に精を吐き出す。残されたのは二人の荒い息遣いと、小さなロザリオ。 「フェリース・ナターウ!ほら、虎も!」 「へりーす・なたーう!!」 半ば自棄になって叫ぶと、統虎はケーキの前でクラッカーを鳴らした。とりあえず秀包を拘束していた縄は解き、怪しげな襦袢に袖を通す。虎の分もあるよ?と無邪気に言い放つ秀包の有難迷惑な申し出は丁重に断り、普段の小袖の重ね着に肩衣、袴姿でケーキを食べた。 甘いクリームが疲れた身体に染み渡る。 「上手いな、コレ」 「だろ?」 フォークを片手に、自分が作ったわけでもないのに秀包が得意気な表情を浮かべる。 「ヤった後だからだな」 「か、関係ないだろ!!」 にやりと不敵に笑う統虎に、耳まで赤くした秀包が間髪開けずに反論する。その言い訳が口を突く前に唇を塞ぐ。秀包の口の中に残ったクリームは、自分が食べたものよりも甘い。そんな的外れな感情と、甘ったるい口付けに酔い痴れる自分に、宗茂は違和感を覚えた。 秀包の首にロザリオが掛かっている。 「お前、それしてるのにイイのか?」 「ん?何が?」 「その首飾りしてる時は嫌がるだろ」 秀包はプッと吹き出すと、突然笑い始めた。 「虎が着物脱がさないから気付いてないだけで、ホントはいつも小袖の下にしてるんだよ」 「え…?」 「だから俺が虎を拒むのは身体が痛い時。大抵二日続けて、とかだろ?」 よくよく考えてみる。言われてみればそうだ。秀包が拒むのは、決まって立て続けに誘ったり、無理をさせた翌々日辺り。自然とロザリオをしている時には誘わなくなっていたが、それも全て秀包の戦略だったのだ。これも 隆景の入れ知恵なのだが、統虎には知る由もない。 それに小袖を脱がせた時も首に何か細い鎖を巻いている事もよくあった。これは押し倒した時の衝撃で、ロザリオの本体が背中に回ってしまっていたからだ。これは、と合点がいった統虎は、もう一度深く口付け、どーいす・べーす、と慣れないポルトガル語で囁いた。 戻る |