| 夜の帳が降りてくる。静かな闇に、小さな水音が響く。そこでは二人の男がまぐわっていた。一人は初老に差し掛かった頃か、しかし逞しい身体をしている。無駄な肉が全く無い訳ではないが、適度な筋肉に適度な脂肪。そしてその均整の取れた身体は今だ現役と言っても過言ではない。組み敷かれている男はまだ青年で、華奢な身体つきをしていた。目尻の僅かな皺が年齢を物語っていたが、ぱっと見ただけではまだ二十代半ばと言った所か。童顔で、骨張った四肢をしている。しかし、頬や胸には適度に肉が乗り、健康そうに見える。情交で赤味の差した頬が、幼さを強調させていた。 初老の男は名を毛利元就と言う。そして背後から組み敷かれているのは毛利隆元。紛う事無き実の親子だ。二人がこの禁断の関係を結び始めたのは９年前に遡る。 元就４９歳、隆元２３歳。元就の妻で隆元の母でもある幸が亡くなった。法名を妙玖と改め、埋葬される様を、隆元は呆然と眺めた。そして元就も。それから暫く、元就はまるで抜け殻のような日々を過ごした。側室も取らず、只々日々を送った。そんな父の姿に、何も出来ないと、愚図と陰口を叩かれていた隆元は何も出来ない自分に無念の思いに駆られていた。 そしてある日、父を何とか励ましてやれないかと、ちょっとした余興を用意した。幸に似た相貌をしていると言われていた隆元だったから、簡単な女装をして紅を引き縁側に座ってぼーっと庭を眺める元就の隣に腰を下ろした。１５の時に周防へ人質として送られてからの３年間のおかげで、武士らしくない物腰の柔らかだった隆元の女装はよく映えた。 「父上」 「………幸…？」 「隆元にございます」 虚ろな目を向ける元就に、隆元が微笑みかける。元就の脳裏に若かりし日の思い出が蘇る。化粧っ気のなかった幸が元就の為にと化粧を始めた頃によく似ていた。そして何よりも元就を魅了したのは、隆元のその目だった。元就を愛しいと思う目。誰よりも元就を慈しむその目。 元就の目に光が戻る。隆元は以前から元就に道ならぬ想いを抱いていた。元就が隆元を抱き締めた時、隆元は至福の想いに包まれた。求めていた温もりを手に入れたと。 「…隆元」 「はい、父上」 声も体格も、女である幸とは似ても似付かない筈なのに、元就は隆元に幸を重ねていた。左腕で隆元の腰を抱き寄せ、右手で顎を掴む。そしてゆっくりと顔を近付け、唇を重ねた。隆元は拒まなかった。それが喩え自分に母を重ねているだけだとしても。元就が自分の名を呼んでくれたことが嬉しかった。女装をしているとは言え、「隆元」として口付けられたのが幸せだった。そして感じる。元就の雄を。隆元に向けられる色に満ちた目を。 何度か啄むような口付けを交わし、視線を合わせる。隆元の目は歓喜に潤み、未だ少年の面影を残した顔立ちに艷やかな色気を湛えていた。 唇を合わせたまま、静かに目を閉じる。触れ合うだけの口付けは暫く続いた。 「隆元」 「…はい」 元就の手が徐に隆元の腰帯に掛かる。打掛を緩慢な動作で脱がされ、隆元は重ね合着姿になった。それらは性急に脱がされ、隆元はあっと言う間に全裸にされてしまう。隆元を押し倒し自らも褌を取り去った元就が聞いた。 「お前は嫌じゃねぇのか、俺様がお前に幸を重ねてることが」 「父上、お慕い申し上げております」 隆元は肘を突き、軽く上体を起こすと自分からそっと口付けた。隆元も元就もそれ以上は何も言わず、三度口付けると舌を絡めた。隆元の口付けは巧みで、元就は飲まれそうになる。幸とは違い、何処か上品ではあったが――決して幸が下品だった訳ではない――恐らくは義隆の元で覚えてきたのだろうと元就には容易に想像が出来た。恐らく隆元は義隆の好みの顔立ちをしているだろう。歳相応とは言えない幼い顔立ちに、一歩引いた怖ず怖ずとした立ち居振る舞い。そしてそれを隠そうと必死で立派な毛利家の嫡男を演じる姿。 下の弟徳寿丸が小早川家に行って１年になる。それを一番淋しがったのは、元就ではなく隆元だった。一番可愛い時を周防で過ごし、気付けば大きくなっていた徳寿丸に、兄として何もしてやれなかったことを、とても残念に思っていた。そんな優しい隆元に欲情するのは罪深いと元就自身も思う。紛れも無い血を分けた息子なのだから。しかしそれ以上に、徳寿丸に負けじと美しく成長した隆元の紅を引いた顔は扇情的だった。 「私が母上の代わりになれるのならば、喜んでこの身体を差し出しましょう」 元々卑屈で自己犠牲の精神の強い隆元だ。本心では幸の代わりにしかなれない自分に歯痒さを覚えたろう。どんな気持ちで女装をしたのか、元就には手に取るように分かった。元就が隆元の首筋に強く吸い付き鬱血痕を残す。小さく喘いだ姿は元就の雄を昂らせた。 「隆元」 もう何度となく名を呼んだ。お前は幸の代わりなどではないと、そう言い聞かせる為に。そうでなければどうして男なんぞ抱けようか。元就はただの女好きではない。抱くのは愛した者だけだ。それに今の隆元が気付けないことも分かっていたが、それでも元就は隆元を抱かずにはいられなかった。 「ち、父上…っ」 乳首に吸い付けば元就の髪を鷲掴みにし、隆元が喘ぐ。口付けた時に移った紅が乳首を赤く染める。 矢張り慣れてやがる。 ３年と言う歳月が隆元の身体を淫らなものに変えた。元就の為というお題目は抜きにして、自分の欲望の滾るままに抱かれに来ていたら、お互いにどれだけ楽だっただろう。母の代わりと思って抱かれる隆元。幸と同じように隆元を愛し、抱こうとしている元就。交錯する意識の中で、元就は脱がせた合着で隆元を包み、抱き上げると部屋の中に戻った。 「いいんだな？」 無言で頷く隆元の心中を思うと心が痛む。香油を手元に手繰り寄せ、指に纏わすと隆元の尻にその指を押し込んだ。隆元の喉が仰け反り、白い肌が影から解放される。恐らくは背を丸めてしまうと腹筋で肛門が締まり、余計に辛くなることを知っているからだろう。元就の武骨な指が二本、慣れた身体に侵入する。いきなり二本はきついかと思ったが、相当義隆を始めとする男を銜え込んだのか、あっさりと指を体内に招き入れたかと思うと、ヒクヒクと痙攣し、もっともっととねだる。これは拳まで飲み込みそうだと、元就は軽い恐怖を覚える。人は快楽に従順だ。少しでも元就の心労を減らしてやろうと女装までした高元を満足させられることが出来るのだろうか。それを考えることを隆元は諾としない。ただ、元就が快楽に興じるままに自分を扱えばいいと思っている。 愛する父の為に身体を投げ打つ息子をどうして無下に出来ようか。元就は隆元の胸を吸いながら、夢中で体内を掻き回した。頭上から降ってくる喘ぎ声が、元就をどうしようもなく興奮させる。乳首を甘噛みすると、甘い悲鳴は大きさを増した。 「あ、あア…っ、父上…」 体内を掻き回しながら陰茎を扱いてやると、肛門がきゅうきゅうと締まる。早く隆元の中に入りたいと、元就の陰茎はその姿を変えていった。しかし、まだ挿入するまでは至らない。しかし隆元の方は受け入れる準備は万端だ。未だ勃ち切らない陰茎を見た隆元が身体を起こし、ずるりと指を肛門から引き抜かせた。そして先走りと唾液を垂らしながら、元就の陰茎にむしゃぶりつき、興奮を煽った。 今までに隆元を思いながら自慰をしたことが全く無いと言えば嘘になる。幸が生きている時から、隆元には欲情していた。それは隆元が大内の屋敷から帰って来てからの事だ。成長期を跨いだ所為か急に大人びていた。それだけではない。仕草が妙に色っぽくなり、いちいち艷やかな物言いをするようになっていた。それはまるで男を誘うような物言いで、まだ小さい弟達の情操教育に宜しくないようにすら思えた。特に当時８歳だった徳寿丸には余計な色事は教えたくない。知ってか知らずか「そう言った」仕草を繰り返す隆元だったが、吉田に帰って来てから２年も経つと漸く落ち着き、柔らかかった物腰にも少し武士らしさが宿ってきた。 とにかく隆元の性技は人質から帰って来てから５年の歳月を経ても衰えることを知らず、元就の陰茎はあっと言う間に硬くなり、今にも射精せんばかりに張り詰めた。 「もういい」 元就は隆元の肩を押すと再び寝かせ、粘度の増した唾液と先走りでぬらぬらと光る陰茎を隆元の肛門に宛がった。隆元が興奮と快感への期待から熱い溜め息を吐く。隆元は自ら膝を元就の肩に乗せ、挿入されやすい体勢を取ると、元就の首に腕を回した。 「父上…キて、ください…」 陰口を叩かれようとも、罵られようとも、只管に父を想い続けた、隆元の一途さが報われる瞬間だった。凄まじい圧迫感と共に、陰茎が体内に入ってくる。十分に慣らしたとは言え、そこは本来排泄にしか使わない器官だ。逆から入ってこられると、身体は自然と拒否し、元就を押し返そうとする。しかし、雁首が通過すると、逆に元就を吸い上げ、きゅうきゅうと締め付けた。そして元就の挿入に合わせ隆元は浅い呼吸を繰り返す。根元まで陰茎が入ってしまうと、元就は隆元の身体を半分に折り曲げ、顔の両側に膝が付くくらいまで折り曲げると自らの先走りで濡れた唇に口付けた。 「苦かったろ？」 「いえ…そんな、ことは…」 「嘘吐け」 舌を絡めると、ねっとりとした先走りが元就の舌にも絡んだ。自身の出したものを口にすると言うのは抵抗があったが、隆元と口付けたい一心で唇を重ねた。息苦しい体勢に、隆元が苦しそうな息を吐く。 「辛いか？」 隆元は黙って首を左右に振った。その表情は恍惚に満ち、目にはうっすらと涙を浮かべている。愛する元就と一緒になれたことが嬉しいのだ。元就も、久方振りに生気の溢れる目をしている。隆元の記憶が定かなら、妙玖が死んでから初めての事だろう。自分を抱くことで、元就が精気を取り戻してくれたことが嬉しくて、隆元はとうとう涙を零した。そして、元就にもその涙は辛さからくる涙ではないことは分かった。何故ならば隆元は優しい笑みを浮かべていたからだ。勿論体内に元就の雄を受け入れている辛さはあるだろう。しかしその辛さこそが隆元にとっての至福であり、全てだった。 「動くぞ」 隆元の返事を待たずに、元就は腰を振り始めた。腰を振ると言っても無闇矢鱈と動かすのではなく、ギリギリまで引き抜いてから、隆元の膝ごと一気に根元まで突き入れる。これを適度な速さで繰り返すと、隆元にも元就にも激しい快感が訪れる。律動を保ち、射精感を耐える。耐えることで、隆元に少しでも快感を与えてやろうとしたのだ。隆元も必死で元就の首にしがみつく。そして少しだけ上体を起こすことにより、より締め付けをきつくして元就の性感を高めてやろうと言うのだ。 「あ、あ、あ！」 「隆元…っ」 元就が律動を早める。今度は己の欲望のままに、只管腰を振る。隆元もその動きに反応して大きな喘ぎ声を上げた。そして。 「っく…！」 「あぁ、あ、ア！」 元就が隆元の体内に熱い飛沫を放つと、その熱に浮かされたのか、追うように隆元も達する。隆元は身体の奥深くに精を放とうとする元就にしがみつき、その首筋に顔を埋め、もう一度歓喜の涙を流した。 繋がりを解き、元就が隆元に聞いた。 「何でまた女装なんかしたんだ。ほれ、あの、初めての時」 「…その方が、父上もお喜びになるかと思って…」 「俺はありのままのお前でいいんだ。それは今でも変わらねぇ」 伏し目がちにぽつりぽつりと呟く隆元の頭を撫でながら元就は言った。 「俺様の中にいるのは幸だけじゃねぇんだぞ、隆元」 「はい、父上」 幾らか皺の増えた目尻に溜まった涙を指先で拭う。いくら童顔と言えど、もう３２歳。それなりに歳を感じる部分はある。母亡き後、自分が慰み者なのではないかと言う思いが消えずにいた隆元にとって、これ程に嬉しい言葉はなかった。 「さ、湯浴みに行こう。湯殿でもう一発だな」 「ち、父上！」 今までまぐわっていたとは思えない程に顔を真っ赤にして叫ぶ隆元。そんな隆元の尻に手を掛け、歳を感じさせない剛力さで抱き上げると、元就は湯殿へ向かって歩き出した。隆元は元就の首に腕を回すと、視界を遮るように頭を上げて口付け、舌を出した。 「その先は湯殿へ行ってからだ」 両手が使えない元就は、一度隆元を降ろし、着替えにと持ってきていた小袖で隆元を腕ごと巻くと再び抱き上げた。 「聞き分けのない坊主にゃお仕置きが必要だな」 「お手柔らかにお願いします」 両腕を封じられた隆元は、照れ臭そうに笑い、元就にその身を任せた。 戻る |