ecstasy Hallowe'en
「とりっくおあとりーと!」
「はぁ?」
 両手を差し出した秀包に、統虎が不思議そうな顔を返す。情事の後のことだった。丁度日付が変わって10月の晦日になった頃だろうか、裸の秀包が突然異国語を口にした。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞって意味」
 今日は10月の晦日だろ?無邪気な笑顔に統虎は欲情する。
「はろうぃんてそれにだーぢでさ、ケーキも作ってあるんだ、虎と食べようと…痛!」
「そんなに菓子が食いてぇならたんまり食わせてやるよ」
 統虎は己の欲望を制止する術をほぼ知らないと言っていい。秀包が指を指した先にあるケーキの所まで秀包の腕を掴み行くと、ケーキの周りに装飾されていた紐を使い秀包を後ろ手に縛った。そして秀包を仰向けに寝かせると、綺麗に装飾されたケーキを無造作に手で掴み、組み敷いた秀包の胸の上に押し付けた。
「と、虎…!?」
「ほら、食えよ」
 ケーキを掴んでべとべとになった手を秀包の目の前に突き出し、唇をなぞる。赤い舌がおずおずと遠慮がちに唇に付いたクリームを舐め取った。次いで言われるがままに統虎の指も口に含む。不自由な身体を必死で動かし、上体を軽く起こしながら統虎の指を口へ運ぶ姿は何とも扇情的で、統虎は裸の身体で陰茎を勃起させた。
そして徐に秀包の胸に押し付けた生クリームに口を付ける。スポンジ部分は犬のようにガツガツと、残ったクリームは秀包を焦らす様に、乳首とその周辺だけを残して舐め取られた。
「んっ、虎ぁ」
 秀包が甘い声を上げる。統虎はケーキを食べたのは初めてだったが、秀包のように甘いと思った。
「いやに甘いな、お前が甘いんじゃないのか?秀包」
にやにやと笑う顔はどこか鬼畜めいていて、秀包は堪らず目を逸らした。
「乳首ばっかり突き出して、舐めてほしいって言ってるみたいだぜ」
 確かに後ろ手に縛られた秀包の体は少しだけ浮いていて、丁度胸を突き出すような姿勢になっている。これでは統虎の言うとおり、ねだっているように見えなくもない。
特に、興奮している統虎にはそう見える筈だ。
「ち、ちがう…」
 指の腹で乳首にクリームを撫で付けると、秀包が小さな悲鳴を上げた。それは甘く熱を孕んでいて。満更でもなさそうな喘ぎ声に更に興奮した統虎は、焦らす余裕もないのか、秀包の胸に吸い付いた。
「あっ、やめ、虎ぁ…!」
 ついさっき達したばかりだというのに、秀包も勃起し、先走りを垂らし始める。すると統虎は陰茎にもクリームを擦り付け、それと一緒に扱き始めた。クリームで滑りの良くなった陰茎を擦られ、しかし統虎らしくもなくやわやわと扱くため、秀包はじれったそうに膝を擦り合わせた。蝋燭の灯りの元でも分かるくらい顔を真っ赤にさせて、秀包は「何で?」と小声で呟いた。縛られた手首が、自分の体重で押し潰されて痛む。しかしそれ以上に快感が勝っていた。柄にもなく焦らされて、秀包は戸惑う。
「どうした?やめろって言うからやめてやったんだぜ」
いつも強引な統虎の初めてみる顔に、焦れた秀包は小さな声で言った。相変わらずやわやわと扱かれる陰茎は、クリーム塗れになり、僅かに残ったスポンジも不思議な快感となって秀包を襲う。
「な…舐めて…」
「ナニを?」
「え…だから…虎の、触ってるトコ…」
「相変わらずおねだりがヘタクソだな、秀包」
 見ていて可哀相になるくらい顔を赤くさせた秀包を詰るような言葉を吐きかけ、統虎が手を胸に異動させる。ツンと勃った乳首を甘噛みしながら、反対側の乳首を指でこねくり回す。まだクリームの余韻の残る乳首はほんのりと甘い。
「虎、お願いだからもう焦らさないで!乱暴にして!」
「おいおい、そんな大声出したら誰かに見付かるぜ?」
 にやにやと意地悪い笑みを浮かべると、統虎は漸く秀包の陰茎にむしゃぶりついた。そこは秀包の先走りとクリームで複雑な味になっている。まずは残ったスポンジを舐め取る。そして横から、まるで串焼きにでも喰い付くかのようにしゃぶりつき、たらたらと流れる先走りとクリームを丹念に舐め取っていく。
「あ、とらぁ…イイよぉ…」
 不自由な身体を捩って悶える秀包の姿は、統虎の嗜虐心を煽る。時折陰茎に歯を立て、少し強めに咬み付く。それでも秀包はビクビクと快感に身を震わせた。
 粗方舐め取ってしまうと、統虎は大きな口を開けて秀包の陰茎を頬張る。淫猥な音を立てながら頭を上下に激しく動かす。そして。
「ヤ、あ、ア、あぁ!」
 勢いよく統虎の口の中に精を放つ。
 ぐったりと疲弊してしまった秀包だが、すっかり統虎に犯し尽くされてしまった身体は更なる刺激を求める。
「ねぇ…虎のおっきいの、イれて…」
 蕩け切った秀包の目はどこか虚ろで、熱病に浮かされたかのように「早く」と繰り返す。
「いいぜ…上出来だ」
「あン!あぁ!と、らぁ!」
 背を大きく丸めさせられ、肛門が丸見えの姿勢にさせられ、上から統虎が激しく突き下ろしてくる。両腕は相当痛いはずなのに、秀包はそんな素振りなど見せずに只管に喘いだ。
 虐げられることに慣れた身体にとっては何もかもが快感で、統虎の出し入れする律動に合わせてあられもない声を上げる。
そして統虎の陰茎が秀包の体内の一点をぐいぐいと押し始めると、秀包の様子が変わった。
「ひっ、ああ!」
 全身が諤々と震え始め、大きな目を更に大きく見開き、口角からは涎を垂れ流している。
 そして程無く。
「うあッあ、あぁー!」
 まるで達した時のような悲鳴を上げ、しかし秀包の陰茎からは精液は一滴も零れてはいない。本当の絶頂を迎えたのだ。それを見た統虎が生唾を飲む。
「出してないのにイったのかよ…っ、エロいヤツだな、っう、あぁ!」
 急激に締めつけられた統虎は、達すると精液を秀包の体内に吐き出した。それでも統虎は萎えることを知らず、未だ硬度を保ったまま秀包の肛門に陰茎を突きたてる。ゴポゴポと卑猥な音が部屋中に響き渡り、秀包は耳から脳までも犯されていた。
「すっげーエロい音だな」
 余裕なさげに統虎が呟く。しかしその声は結合部から発せられる音によって掻き消された。
 そして最後にもう一度ギリギリまで引き抜き、一気に最奥を目指して突き刺すと、今度こそ秀包は精液を吐き出して達した。統虎もまた、達した際の締め付けによって後を追うように達し、再び秀包の体内に精液を注ぎ込んだ。



「虎のバカ!」
「悪かったって!」
 腕の拘束を解き、痺れも取れ理性が戻ると、秀包は堰を切ったように怒鳴り出した。
「キリシタンのそれにだーぢだって言っただろ!」
「何だよそれ!」
「行事のことだよ!」
「知らねぇよ!悪かったって言ってるだろ!」
 押し問答を繰り返していると、ハロウィンという海外の行事で、一緒にケーキと言う西洋菓子を食べようとしていたのだと分かった。本当は南瓜で燭台を作って祝うのだと聞いたが、統虎にはさっぱり分からない。
「もう知らねぇよ!」
「おい、秀包!」
 そっぽを向いてしまった秀包の機嫌はなかなか直りそうにない。
「悪かったよ…陽が明けたらまたけーき食おうな」
 統虎が頭を掻きながら俯き気味にぽつりと呟くと、秀包は漸く統虎に向き直り、
「本気で言ってんの?」
 と聞いた。
「おう、本気だ」
「虎」
「何――」
 顔を上げた統虎に秀包が飛びつき、少しかさついた唇を統虎の唇に押し付けた。
「な、何だよ」
 突然の口付けにドギマギする統虎に秀包は満面の笑顔で答えた。
「とりっくおあとりーと!」



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