悪戯
「乃美君、シよ?」
 執務中に部屋に入ってきた隆景を、忙しいので、と暫く放っておいたら、部屋の隅でゴロゴロと転がり始めた。そして、仕事が一区切り付き大きく伸びをした瞬間、隆景の口から衝撃的な言葉が飛び出した。
「た、隆景様!こんな真昼間から何を言い出すのですか!」
 身体を重ねるのは初めてではない。大抵宗勝の方から求めているので、もしかしたら単に兄元春の代わりにしているのではないかと言う不安はあった。だから隆景の方から求めてくるのは、宗勝にとってとてつもなく信じられないことであり、天にも昇る心地だった。
「イイでしょ?仕事も区切りついたみたいだし」
 四つん這いになって隆景が近付いてくる。
 もう人払いは済ませてあるんだよ。やや高めの声が宗勝を挑発する。しかしこんな昼間から情事に耽るわけにはいかないと、気真面目な宗勝は妖艶に迫る隆景から必死で目を逸らす。隆景自ら肩裾の小袖を袴から引き抜くと、股立から真っ白な足が覗く。
 それを宗勝は無意識的に目で追ってしまう。そして感じる劣情。口元を掌で拭い、至極冷静を装おうとするが、それが不可能なことはお互い分かっていた。
「宗勝、目、閉じて」
 とうとう壁際まで追い遣られ、言われるがままに目を閉じる。唇の心地良い温かさと共に、目元にも温かい物が当てられ、次いで後頭部に少々の圧迫感。唇が離れた次の瞬間、ゆっくりと目を開けたが、視界は真っ暗なままだった。
「隆景様…?」
 手を目に遣ろうとするのを隆景に阻まれる。
「目隠し。今日はこれでシよ?」
「隆景様…っ」
 しゅるしゅると腰帯を解く音と、ぱさりと小袖の落ちる音がする。目の前で愛しい主人が全裸になっているのだと思うと、宗勝は自然と興奮し、目の前にいる筈の隆景に手を伸ばす。丁度腰骨に触れたらしく、触れた先の身体がピクリと震えた。
「外したら今日の仕事は倍ね」
 余裕ぶった言葉も僅かな快感に声が震える。隆景の手が宗勝の小袖の衿に掛かった。袷が強引に開かれ、現れた普段は陽に晒される事のない白い肌に手を滑らす。
「宗勝、そのまま、シて」
 柔らかく口付けられ、宗勝の手を隆景が取る。導かれた先には、健康的に日焼けした肌。隆景自ら宗勝の掌が乳首を覆うように、彼の手を置いた。
「わかりました」
 掌をずらし、指先で乳首を優しく弄る。手の場所を頼りに前のめりになると、隆景の胸元に口付けた。少しずつ口付ける場所を移動させ、舌を出すとぺろりと目の前の肌を舐める。
「もうちょっと…上…」
確かに上唇の端に突起の当たる感触があった。そこへ唇を移し、唇を巻き込むと強めに食む。
「あぁ!」
 宗勝は乳首の場所を確認すると、執拗にそこを責める。舌で優しく包み込んだかと思うと、軽く歯を立ててみたりと、口で出来るありとあらゆる愛撫を施した。
 そして反対の手は身体の線をなぞりながら隆景の股間へ辿り着く。
「んっ」
 いつの間にか隆景は着物を全て脱ぎ去ってしまっていたようで、そこには勃起した陰茎があった。隆景の身体を知り尽くしているとはいえ、何も見えないとそれなりの不安はあるらしく、宗勝の手は慎重だった。やんわりと陰茎を包み込み、刺激を感じないのではないかというくらいの力でゆるゆると扱く。
 しかし乳首を弄る手と口は乱暴さを孕み、隆景を追い詰めた。
「あ、あぁ、宗、勝っ」
 途切れ途切れに名を呼ぶと、今度は陰茎を握る手にも力が込められる。宗勝の手のたどたどしい動きの一部始終を見ている隆景は視界を奪われながらも自分を翻弄する宗勝に段々悔しくなり、襲い来る快感の波の中で宗勝の乳首を摘まんだ。
「ぁ」
 宗勝の手の動きが一瞬止まる。隆景にもはっきり聞こえた小さな小さな喘ぎ声は確かに宗勝のものだ。
乃美君でもこんな声出すんだ。
 いつもは決して聞く事のない少し上ずった宗勝の声。挿入の時の興奮している声にも似ているが、また違った色を含んでいた。
 隆景の突然の行動に驚いた宗勝が固まっていると、隆景は宗勝の両手を払い退け、身体を屈めるとおずおずと宗勝の乳首に口付けた。
「た、隆景、様…っ」
 チュウッと吸い付くと宗勝の身体が跳ねる。それが面白くて赤ん坊のようにちゅうちゅうと吸う。宗勝の両手が、胸元にある隆景の頭を掴む。離そうとしているのか、それともいつも隆景がするように縋っているのかは分からない。しかし、隆景の行為に快感を覚えているのは確かなようで、声こそ我慢しているものの宗勝の身体はフルフルと震えていた。
「宗勝、何か、可愛い」
 親指の腹で反対側の乳首を潰すと、今度こそ宗勝の口からはっきりとした喘ぎが零れた。味を占めた隆景は、宗勝の袴と褌を剥ぎ取ると、現れた陰茎に食い付いた。
「あっ、隆景様!なりませ、ん」
 主人が家臣の陰茎をしゃぶるなど言語道断。そう考えていた宗勝は必死で抵抗をしたが、隆景への愛撫で既に興奮していた陰茎は温かい口の中であっさりと質量を増した。
「タマにはこーゆーのもイイでしょ?」
 唾液を口角から零しながら隆景が聞く。前夜の情事が思い出され、宗勝は羞恥に呻いた。隆景の姿こそ見えないが、どういう表情をしているのか容易に知れる口調。そして宗勝の想像通り、隆景は満足そうな笑みを浮かべている。



 完全に勃起したところで、ふいに隆景の気配がグッと近付く。何事かと思った次の瞬間、宗勝の陰茎を何かが強く包み、締め付けた。それはよく馴染んだ隆景の感触。
 半分押し倒されたような状態で騎乗位にされ、震えた。目隠しをされている所為で感覚が研ぎ澄まされ、陰茎への刺激がいつもの何倍にも感じられたのだ。その上隆景が乳首を両手で弄り回している所為で、隆景の体内で宗勝の陰茎はぴくぴくと震える。それが気持ちいいのか、隆景は尚も宗勝の乳首を弄り回す。
「宗勝…気持ちイイ…?」
「は、はい…っ」
 両手を宗勝の膝に乗せ、ゆっくりと身体を上下に動かし始めた隆景の身体の線を腰から辿り、再び胸元へ辿り着く。
「んっ、あ」
 再び形勢を整えつつある宗勝に、隆景は自棄になって腰を振った。
しかし宗勝は上下する胸を捕え、手探りで身体に合わせて移動する乳首に触れる。隆景の肛門がきゅっと締まり、宗勝は快感から呻き声を上げた。
「隆景様…っ!」
 耐え切れずに達する。隆景は熱い体内に放出された精液の生温さも気付かず、しかし陰茎がスッと硬度を緩めたのには気付き、動きを止めた。
「もうイっちゃったの?宗勝」
 宗勝に跨ったまま、隆景がにやりと笑う。この表情を宗勝が見たら、どういう反応をしただろうか。はぁはぁと呼吸する宗勝は、いつにもましてぐったりとしていた。乳首を弄っていた手も、だらりと畳に投げ出されている。
「ねぇ、私もイかせて…」
 身体を持ち上げて宗勝の陰茎を引き抜く。そして投げ出された手を取り、自らの陰茎へ招く。すると宗勝は気怠そうに身体を起こすと、手を頼りに隆景の亀頭を口に含んだ。
「ぅんっ!」
 先端を優しく食み、竿を片手で扱きながらじゅるじゅると音を立てながら強く吸う。それまでの挿入でも快感を感じていたおかげで、隆景もあっさりとその欲を解放した。
 宗勝は精液を飲み込むと、口の端を上げて笑った。
「隆景様も随分早うございますな」
「お互い様だね」
 言うと、隆景は宗勝の目隠しをしていた布を外した。
「あぁ、やっぱりいつもの乃美君だ」
「隆景様も相変わらず美しくあられる」
 宗勝が両手で隆景の顔を包み込む。温かさに心地良さを感じ、その手に擦り寄ると、自分の精液が注ぎ込まれた口にそっと口付けた。
「やっぱり見えている方がいいです」
「私は…タマにはこういうのもいいかな」
 照れたような恥ずかしそうな、そんな笑みを浮かべながら隆景がぼそぼそと呟く。
「でしたら私もお付き合い致しましょう」
 笑みを返した宗勝に、今度は深く口付け、額を合わせてまた笑った。



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