目隠し
 久々の逢瀬。忍んでしかこうして夜会うことは許されないけれど、妥協ではなく、元春も隆景も納得していた。
「あンっ!あぁ!春に、うあ!」
 夜中は人払いをし、満足に声を上げる。深夜の人払いなど、と最初は訝しむ者もいたが、数週間から数か月に一度と言うのも理由になって家臣たちは次第に納得するようになっていた。納得と言うよりも単なる慣れかもしれないが。
 激しい突き上げに、隆景はあられもない姿を曝す。
 この晩も2カ月ぶりの逢瀬で、随分久しぶりに公に泊まりに来られているだけあって元春は酷く興奮していた。さすがに寝所は別々だったの だが、相変わらずこの兄は夜が更けると侵入してくるし、隆景もそれを期待していた。
 しかしこの日の元春の興奮ぶりと言ったら尋常ではなく、翌日の公務を休む羽目になったしまった程なのだ。
 仰向けに寝転がり、尻を庇うように両膝を立てる。その所為で布団の一か所が不自然に盛り上がっていた。
 心配そうな表情を浮かべて、さも面目ないと言わんばかりの顔で元春が隆景を見下ろしている。しかし。
「隆景」
「春に…んっ」
 看病してくれる筈だったのに、元春が隆景に施したのは深い口付け。心配そうなその表情の裏に隠されていたのは激しい劣情。
「どうせまたしばらくこれんのだ、もう一度くらいしても罰は当たるまい」
「ちょ…春兄!私は執務を休んで…あっ」
 悲しいかな、完全に慣らされた身体は、襦袢の袷から侵入した武骨な指で乳首を捏ね繰り回され喘ぎ声を上げてしまう。
「月並みなセリフだが、身体は正直だな、隆景」
 確かに今日は隆景の体調が優れないからと宗勝が気を利かせて一日中人払いをしてくれている手筈にはなっている。しかしそれは一日休む為であって、決して元春と情を交わす為ではない。だが、すでに元春はその気のようだし、隆景も執拗に乳首を責められ身体の芯が疼き始める。昨晩の激しい情交が思い出された。そしてとうとう隆景の口腔を掻き回す舌に、自らの舌を絡める。
占めたとばかりに元春の口付けは激しさを増し、その最中に首の裏に手を当てられゆっくりと起こされた。
「はっ…何…?」
「ちょっと趣向を変えてみようと思ってな」
 言うなり元春は隆景の両手を取り、懐から取り出した紐で背後で一括りにした。
「春兄…ちょっと悪趣味なんじゃない?」
「そんなことを言ってられるのは今の内だけだ」
 尻と、擦れた手首の痛みに眉を顰めながらも、若干の余裕を見せる隆景に、元春は昨日自分が着ていたのをくすねておいた襦袢の腰帯を取り出すと、隆景の目を塞ぐように二重三重に巻くと頭の後ろで縛った。
「ちょ…春兄!」
 何も見えなくなった隆景が抗議の声を上げるが、後ろ手に縛られた現状では自分で解くことは出来ない。そんな隆景を嘲笑うかのように元春が乱れた襦袢の袷に手を掛け、現れた赤錆色の乳首に舌を這わせた。
「アっ!」
 突然の刺激に、驚いて甘い声を上げる。
「見えない方が感じるだろう?」
 先端を甘噛みしながら、元春が隆景を挑発する。しかし、隆景はそんな事に動じてなるものかと歯を食い縛る。いくら愛しい元春の愛撫とはいえ、こんな悪趣味な情交は嫌だったのだ。だが、そんな理性を陥落させるべく、元春はしつこく乳首を舐めてくる。
「く、ぅ…っ」
 いつもなら我慢していると軽口を叩いてくる元春が、一心不乱に乳首に吸い付いてきた。舌で押し潰したり、強弱を付けて吸われる度に隆景の芯は火照り、不覚にもその首をもたげ始める。
 それでも声を我慢していると、胸元から元春の気配が消え、ホッとして口元を緩めた次の瞬間、先程のような激しい口付けを強いられた。飲み下せない唾液が口角を伝って顎へと滴り落ちるほどに激しい口付け。そんな隆景の姿に興奮したのか、元春の施す口付けは酸欠になりそうな程に激しさを増していく。
 鼻で息をすればいいなんて生半可なものではない。呼吸すら忘れるほどに、激しく、官能的で。
 酸素が足りなくてぼんやりしていく頭の中で、改めて元春の性技の素晴らしさに感服させられる。
 口付けは尚も続き、そのまま、胸に突然ガサガサした指が触れる。隆景は一瞬身体をビクッとさせ、小さくもがいた。そうかと思うと、優しく後頭部を支えられ、大きな手が耳を掠める。右の胸を弄っていたかと思うとすぐに左へ。手が離れ反対側に異動するのだろうと覚悟していると再び同じ側を責められる。何処から何処へ移るか分からない、そんな愛撫に隆景は口付けの合間をぬって哀願した。
「はる、にい…もっと下も…触っ、て…」
「ヨくなってきただろう?」
 唇が触れあったままの距離で元春が低く囁きにやりと笑う。隆景の背中にゾクリとしたものが走り、陰茎がヒクヒクと震えた。
 見えないことがこんなにも感覚を敏感にさせるとは夢にも思わなかった隆景は、自身の身体の変化に戸惑っていた。そして、あまりにはしたない言葉が口を突いてしまった事も。
「……うん」
 元春は隆景を膝立ちにさせると、ゆっくり身体を前に倒させ肩で上体を支えるような姿勢にさせた。尻を突き出す体勢にされてしまい、嫌だと言うように首を振ろうとするが、両肩が布団についている所為でそれすらも許されない。襦袢の帯が緩められ、元春の手が隆景の陰茎を掴んだ。
「あぁ!」
 そこは隆景が感じていた以上に勃ち上がり、先走りを垂れ流している。それを圧し掛かりながら耳元へ囁いてやると、陰茎は元春の手の中でビクンと跳ねた。右手で身体を支えながら左手で陰茎を扱く。そうすると面白いほどに隆景は全身を痙攣させ、恐ろしい程の快感に喘ぎ、達した。
「隆景」
 時折呼ばれる名前。それが低く脳を犯す。今や肛門はぐちゃぐちゃに慣らされ、戯れ程度に指が抜かれる度にヒクヒクと震え元春を求めた。
「あ、あぁ…ア…春…っ」
「隆景」
 ふと、指が抜かれ、背後から元春の気配が消える。視界を奪われ随分と経った今、隆景の神経は酷く敏感になっていて、何となくではあるが元春の気配を無意識的に追うようになっていた。しかし今はそれがない。不安に思い、無駄だと分かっていながらも暗い布の裏側できょろきょろと視線だけを動かす。
 すると、突如鼻をツンと饐えた臭いが突いた。
「春兄…?」
「舐めてくれ、隆景」
 唇に元春のいきり立った陰茎の先を押し当てられ、先走りが唇を光らせる。元春は袴の股立をとり、陰茎を隆景の口元に突き出していた。しかし、元春の陰茎は今にも射精しそうなほどに勃起していて、口淫など無意味に思えた。それでも隆景は大きく肥大した陰茎を不自由な口で咥え込み、舌で舐める。それは決して気持ちの良い口淫ではなかったかもしれないが、張り詰めた元春には十分すぎる刺激だった。
 隆景が口を開いてからそれ程の時を置かずに、元春は隆景の口内に精を放った。
「うっ…く」
 元春の低く唸る声に、隆景は欲情する。苦い精液を最後の一滴まで絞りだそうとでも言わんばかりにジュッと吸い上げる。そうすると元春の陰茎は隆景の口の中で再び硬度を増し、舌の先で陰茎の先端を舐めてやればまた元通り先走りを滲ませ始めた。
 再びの苦みに顔を顰めたところで、肩を器用に使い顔を元春の反対側に向けた。
「隆景?」
「早く…挿れて……」
 飲み切れなかった精液が唇と頬を伝い布団に染み込む。元々美しい隆景の、何とも言えない官能的な姿に元春は息を飲んだ。



「あっ、はぁ!春兄ぃ…っ」
「隆景…!」
 太い陰茎が自らの肛門を出入りする度に、隆景はあられもない声を上げる。元春も余裕なさげに荒い息を吐いた。
深くはない、浅い挿入は隆景にも元春にも激しい快感をもたらす。しかし自然と元春は大きく腰を動かし、目隠しをされた隆景を見下ろしては愉悦に浸る。唾液をだらしなく布団に垂れ流す様は、元春の嗜虐心を酷く刺激した。圧迫された胸では満足に息も吸えず、その上激しく腰を打ち据えられた隆景は、パクパクと酸素を求めて口を開閉させる。
 それが元春には怖いくらいに美しく見えた。
 前立腺を見付けてはそこを重点的に責め、強い締め付けにも必死で耐える。
「春兄…っ!あ、あぁ…春に、いぃ…!」
 隆景が何かに縋るように縛られた手を元春の方へ伸ばす。それが、自分を求めているのだと知った時、元春は腰を支えていた手を片方だけ頼りない手に伸ばし、指を絡めた。
 片手を腰に当てているだけという不自然になった体勢を危険と感じた元春は、隆景の腰に腕を絡めて体勢を安定させると、今度は自然と深いところを突き始める。それでも太い陰茎はぷっくりと膨らんできた前立腺を擦り続け、隆景は今にも意識を失いそうな激しい快感に襲われた。
「うあ、あ、ああ、っあ」
 突如隆景の身体が痙攣を始め、諤々と震え始めた。達した時の痙攣に似ているが、精液は出ていない。しかもその震えも長く続いている。こんなことは初めてで、一瞬は戸惑った元春だったが、すぐに腰を振り始めた。そうすると隆景は矢張り悲鳴を上げながら痙攣を続け、元春が果てて動きを止めるまで震え続けた。
 その後、元春は陰茎を引き抜き腰を支えたまま、まだ絡み合っていたいと名残惜しがる手を払い、隆景の陰茎に手を掛けた。
「う、っく!」
 何度か扱くと張り詰めていた陰茎は精液を漸く吐き出し、元春は布団が汚れないようにそれを掌で受け止めた。しかし布団は既に唾液と隆景の吐き出した元春の精液でべとべとになってしまっている。何をしていたかは余程鈍感な人間でなければ気付いてしまうだろう。
しかも汗で濡れているだろうと気を利かせて布団を替えに来るのは侍女より先に宗勝の筈だ。
 隆景の腕の拘束を解き、目隠しに使っていた帯を外してやる。寝かせたときのようにゆっくりと身体を横にしてやると、ぼんやりと目を開けた隆景と目が合った。
「隆景、大丈夫か?」
「うん……死んじゃうかと思うくらい気持ち良かったよ」
 頬を赤らめて恥ずかしそうに呟く。隆景の手首には少しだけ擦れた痕が残っていたから、申し訳なさそうにさすってやったが、特に痛そうな素振りは見せなかった。
「なぁ、最後のアレ、何だったんだ?」
「…わかんない……でも苦しかった…でも凄く気持ちよくて…」
 口元をはだけた襦袢の衿で拭きながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いでゆく。女のように長い絶頂を味わった隆景は、安心したのか、疲れからなのか、うつらうつらし始める。
「隆景、もう少し寝ないで待っていろ」
 さすがにこの布団で寝かせるのは可哀相だと思った元春は、昨晩自分に与えられた部屋へ向かった。そして部屋の隅に畳まれた布団を抱えて隆景の部屋に戻る途中、人払いをしておくと言っておいた宗勝とかちあった。
「これはこれは吉川殿、布団を抱えて一体どちらへ?」
「貴様には関係ない、そこを退け」
「隆景様と昼寝でもなさるのなら私共が用意を致しましょう」
 犬猿の仲とも言える元春と宗勝は、廊下で牽制し合ったままなかなか動かない。元春にしてみれば愛しい弟がぐちゃぐちゃの布団で寝ているのは忍びないから、早く行ってやりたいのだが、この近習は知ってか知らずか退こうとはしない。本当なら宗勝一人で廊下が一杯になることなどあり得ないのだから、不服ながら避けて行くこともできた。しかし、布団が邪魔をして、宗勝が端へ避けてくれないと先へ進めない。突き飛ばすことも出来たがここで事を荒立てたくはない。
「これは某の問題だ、下がっていてもらおう」
 顔には出さずに困っていると、宗勝がスッと廊下の隅へ寄り、頭を下げた。あまりの出来ごとに唖然としていると、宗勝が微かに怒気を孕んだ声色で言った。
「隆景様はお身体の調子が優れないご様子。どうぞよろしくお願い申し上げます」
 確信犯だ。元春はそう思った。厭味ったらしい宗勝の態度に、一度は怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、隆景のことを思うとそうも言っていられない。
 のしのしと大股で宗勝の前を横切り、振り返りもせずに通り過ぎる。頭を上げた宗勝の振り返った鋭い視線にも気付かないくらい、隆景の事だけを考えていた。
「隆景?」
 部屋に戻ると、隆景はすっかり眠ってしまっていて、安らかな寝息を立てていた。
 乃美宗勝め。
 心中で毒づくと、隣に布団を敷き、隆景を移動させるべく首の裏と膝の裏に腕を入れ、持ち上げる。僅かな移動だが、隆景は元春よりも細身だが、上背がある上に筋肉も適度に付いていて重い。
「ん…」
 移動させてから改めて口元を拭ってやると、隆景が小さく呻いた。どんな夢を見ているのだろう。自分が戻るまでの間、何を考えていたのだろう。
 そして宗勝とは何があるのだろう。
 あの怒気を含んだ声色は、尋常なものではない嫉妬を感じさせた。主従という関係が邪魔をして手を出せないのか、それとも。
隆景の細く柔らかな髪を指で梳く。さらさらと零れ落ちる髪は、どこか不安定さを感じさせられた。しかし、その触り心地の良さに、元春は目を細めた。
 次に会える時までこの柔らかさを覚えておこう。そう心に誓って。



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