乱れ華


 隆景は目を見張った。目の前で繰り広げられている光景が、信じられないものだったからだ。吉田にある隆景の館、それも隆景の部屋で元春と隆元が濃厚な口付けを交わしていたのだから。それも隆元に軍配が上がっているらしく、あの元春が息も絶え絶えになって隆元の背にしがみ付いている。
「あ、兄上!?」
 呼んだ後、しまった、と思った。何も最中に声を掛けなくても、終わってから何事もなかったかのように入って行けば良かったのではないか、と。
 しかし、恋人でもある元春が、やはり実の兄である隆元とまるで情を交わしているかのような濃厚な口付けを交わしているのを見てしまったら黙っては居られない。
「た、隆景!?」
「春兄、私の部屋でナニしてるの…」
 ゆらり、と部屋に一歩足を踏み入れる。慌てて隆元を突き飛ばした元春は、隆景の方を向き両手で口元を拭った。よろけた隆元はすぐに体勢を立て直し、元春にしな垂れかかる。
「いや、これはだな、兄上が…っ」
 そして二歩。
「そうだよ、隆景。私が誘ったんだ。まさかこんなに簡単にノってくるとは思わなかったけどね」
 三歩目を踏み出した時、隆元が口の端をあげて笑った。こんな笑い方をする隆元を見たのは初めてだったから、隆景は多少の戸惑いを覚えた。
「隆兄…何で…」
「隆景、違うんだ、俺は兄上に上手い口吸いの仕方を教えてやるからと言われて…」
慌てふためく元春とは対照的に、隆元は妖艶な雰囲気さえ醸し出している。そんな隆元の姿に、隆景は軽い寒気を覚えた。
「隆景、おいで」
「あ…」
 肩を掴もうと元春に差し出した筈の手を引かれて、口付けられる。性急に舌が差し出され隆景の口内を蹂躙する。
「んん、ふぅ!」
「兄上!」
 二人を引き剥がそうと肩に手を掛けた元春を、隆元が薄らと目を開けて流し目で制した。
 その間にも隆元は隆景に唾液を送り込み、それを再び吸い上げる。隆景は感じているのか、膝が小さく震えていた。
 漸く離れて行ったかと思うと、隆景の顔は真っ赤に染まり、目には快感から来る涙を浮かべている。
「ふふ、元春の味がするだろう?」
 口を解放した隆元は口角を伝う唾液を袖で拭った。一方の隆景は放心状態で、垂れた唾液や滲む涙を拭こうともせずに真っ赤になった頬を両手で押さえていた。



 隆元は口と手を使い器用に並んだ元春と隆景の袴を下ろすと、立ち尽くす隆景の前に跪き、褌を解き軽く勃起しかけた陰茎を頬張った。隆元の口技は凄まじく、信じられない光景に驚いて怒り心頭だった隆景もあっという間に勃起させられ、今にも達しそうになっていた。その音を聞いて興奮したのか、元春もその様子を覗き込みながら慌てて褌を脱ぎ去る。
「あ、あぁ…隆に、ぃ…」
「兄上…っ」
 隆景が今にも倒れそうになるのを必死で耐えながら隆元の頭を掴み、陰茎を喉の奥まで押し込む。しかし隆元はえづく事もなく、舌の先と根で隆景を昂めた。それを見ながら元春は自らの陰茎を扱く。隆景も深い口淫による初めての刺激に、思わず精を放ってしまった。
「あ…隆兄、ゴメン…」
 喉の奥に精を放たれたと言うのに、隆元は何の抵抗もなく飲み込み、溢すことなく胃の中へ収めた。その直後。
「あ、兄上っ」
 元春が隆元の顔面に向かって射精する。濃い精液が隆元の顔に掛かり、ハッと我に返った元春は思わず後ずさった。
「も、申し訳ありません!」
「気にしなくていいんだよ、元春。タまってたんだね」
 すると隆元はしれっとした顔で顔に付いた精液を舐め始めた。鼻の頭の方に付いたものは指で絡め取り、口の周りに付いたものは赤い舌を伸ばして舐め取る。今までの隆元の印象とは掛け離れた淫靡な姿に、二人は困惑した。
四つん這いになった隆元が、今度は元春の陰茎に口を出す。隆景がしたように頭を押さえ付けてくるのかとくるかと思ったが、先程顔に掛けてしまった負い目でもあるのか、少し中腰になり隆元の両肩を掴んだだけだった。すると隆元の方から喉の奥まで元春を咥え込み、淫猥な音を立てながら頭を前後に振る。今まで隆景には咥えられた事のない根元の方まで柔らかい粘膜に包まれ、ついさっき達したばかりの元春の陰茎は再び先走りを零し始めた。
 暫く射精の余韻に浸っていた隆景は、その光景を見るとまたカッと顔が赤くなり、それでも元春のように自らの陰茎に手を伸ばした。それを見た隆元は一度陰茎から口を離し、言った。
「隆景、私も…イかせて」
 口を離されても吐息が掛かる場所で囁かれた為、元春が熱い息を吐いた。隆景は言われるがままに隆元の後ろに回り込むと、袴と褌を脱がせ陰茎に冷たい指を絡める。その指の冷たさに隆元は一瞬息を飲むが、扱かれる内に次第に指先まで熱くなり、それは快感をもたらした。その間にも隆元は再び元春の陰茎を咥え、じゅるじゅると吸い上げている。
「ん、ふ…ぐ…」
 口を窄め、隆景よりも太い陰茎を頬の裏で愛撫する。喉の奥から鼻を突く独特の臭いは、隆元を軽い酸欠状態に追い込んだ。さすがに二人続けてはきつい。
「あにうえ…っ」
 堪らずに元春が深く俯く。
 隆景は自分の愛撫に翻弄される兄に気を良くしたのか、小袖を捲り上げ隆元の背中に鬱血痕を残していた。背骨に沿って舐められると、隆元は快感に喘ぎ、元春の陰茎に歯を立てる。それが止めになったのか、元春は二度目だと言うのにあっけなく隆元の喉の奥深くに精を吐き出した。やはり咽返ることなく飲み込む。だが今回は隆景の愛撫の所為か、少しだけ飲み切れない分が口の端から零れた。



 そして今度は隆元が責められる番だった。隆景は相変わらず陰茎を一心不乱に扱きながら背筋を舐めている。隆元は快感に弱いのか、隆景に責められると必死で耐えていた腕が震えガクリと右肘を突いた。それを元春が両脇に手を入れて抱え上げ、自分の精液で汚れた唇に口付ける。
 ぐったりしていても矢張り隆元の口吸いは巧みで、元春は三度快感に飲まれそうになる。しかし、今度は耐え切り、隆元の舌を強く吸うと軽く甘噛みした。
「ふ…ぁ、あ、あぁ!」
 前と後ろからの刺激に耐え切れなくなった隆元が達する。その精液を隆景は掌で受け止めた。元春と目を合わせると、ドキドキしながらその手を隆元の口元へ運ぶ。
「隆兄、…舐めて」
 少し溜めて発せられた言葉の通りに、隆元は自らの精液を隆景の手から舐めた。量自体は多くないものの、暫く溜めていたのか粘度の高い精液を一生懸命に舐める隆元に、隆景と元春はもう一度顔を見合わせ、ゾクゾクするほどの快感を覚えた。征服欲に近かったのかもしれない。愚図と陰で罵られながらも毛利家の当主であり続けようとする隆元が、自分たちのモノに堕ちた瞬間だった。最初は隆元も仲の良い二人に嫉妬して、ちょっとだけからかってやろう、くらいの気持ちだっただろう。しかし、山口での義隆との歪んだ情交に慣れた隆元には、自分の精液を飲まされるというのは義隆との行為を思い出させられるような行為だった。
 隆元は自分の吐き出した精液を隆景の掌から舐めながら思う。
 自分よりもずっと賢く、器量の良い隆景が隆元以上に義隆を魅了し、三ヶ月もの間義隆の寵愛を一身に受け続けた事に嫉妬していたと。吉田を空けるわけにはいかないと元就に留守を任された時、地に叩き付けられたかのような衝撃を受けたことを。
「いやらしいね、隆兄。自分の出したもの舐めるなんて」
「あ…」
 もうすっかり大人の声になった筈の隆景の無邪気な声色に隆元はゾクリとする。それは隆景が嫌悪した義隆のものに酷く似ていた。背後に回った元春が指を二本、隆元の口に滑り込ませ舌を弄ぶ。
「兄上、これが兄上の中に入ります。よく舐めてくだされ」
 隆元は矢継ぎ早に差し出される手や指に必死に舌を這わした。まるで輪姦されているような気分だ。ぼんやりと思う。そういえば義隆は隆元が他の小姓に犯されるのを見て愉しむ趣向もあった。思い出と現実の狭間で隆元の意識は混濁していく。
 両肘を畳に付け、尻を高く突き出した格好になってしまった隆元の両足を開かせ、元春は精液と唾液でぬるつく指を肛門に突き刺した。
「―――っ!」
 突然の事に隆元が喉を反らす。そこへすかさず隆景が口付けた。舌を絡め取り、強く吸うと隆元は元春の指を強く締め付けた。
「兄上、指一本でコレでは後がもちませぬぞ」
 ぐりぐりと抉るように指を動かせば、隆元は全身を震わせる。今にも倒れそうになるのを許さないのは隆景の口付けだった。元春も見ていて驚くくらい強引な口付けで、隆景は隆元を翻弄する。しかし、元春はそれを楽しげに眺めながら、まだキツイにも関わらず指を二本に増やし隆元の直腸を蹂躙した。
「んっ!んん――!!」
 元春は手慣れているのか、前立腺を責められた隆元が二度目の絶頂を迎えようとした時、元春が陰茎の根元を強く握った。
「!?」
 隆元が視線だけを後ろに向けようと、顔を傾けるがそれは隆景が許さなかった。情熱的な口付けと乱暴にすら感じる愛撫に、きつく閉じた瞼から涙が零れる。
「ン、ふあ…たかかげ…っ」
 隆景が息継ぎに口を離した隙に、名前を呼ぶ。二人の間を銀糸が繋ぎ、心許無いそれが切れる前に再び唇を合わせた。
射精を禁じられたまま隆元は快楽に興じる。隆景も兄との口付けに興奮したのか、陰茎は首をもたげていた。そして既に完全に勃起してしまっている元春は、ゆっくりと隆元を戒めている手を離すといきり立った陰茎を隆元の肛門に捻じ込んだ。
「うあ、あぁ!――んぐっ」
 元就に負けず劣らずと言った具合の大きさの陰茎が隆元を貫く。大きく悲鳴を上げた口に隆景が己の陰茎を差し込んだ。そして隆元の上の方から「隆兄、もう一回舐めて」なんて囁かれ、言われるがままに舌を動かし、不自由な体勢のまま首を振り、頬の裏で隆景を慰める。
「隆景」
 元春は隆景を呼ぶと、陰茎を奥深くに突き立てながら隆景の頭の裏に手を遣り、グイッと引き寄せ口付けた。二人の唾液は口淫や、隆元との口付けで行き来した精液や先走りのおかげで苦い。元春と隆景が上体を倒しいつものように口付け合うと、元春の陰茎は一層深く隆元を抉り、隆景の陰茎は隆元の喉の奥まで捻じ込まれた。
 息苦しさから四つん這いにさせられた隆元が呻く。しかし二人は全く意に介さずと言った風で、先程まで隆元と交わしていたような、だが慣れた口付けに興じている。しかも元春は器用に腰を振り、深い所で出し入れを繰り返すものだから、隆元は呼吸の自由すら奪われた。
「ん、はるにぃ…っ」
「隆、景…」
 賢い隆景は最初の口付けで要領を得たのか、隆元のように舌を巧みに絡ませ、吸い上げる。突然上達した口付けに、元春は一瞬躊躇うもすぐにそれに順応し、隆元との口付けを思い出しながら隆景の唾液を啜った。
「んっ、ぐ…ぅ、う」
 隆景も自然と腰を振り始め、隆元は息苦しさに涙する。元春と隆景の口付けは止まるところを知らず、零れ落ちた唾液は二人の顎を伝い隆元の背に滴り落ちた。それが背を流れる感覚に隆元が元春を締め付けると、お互いの快感は高まる。だが、その所為でなおざりになった口腔に隆景が容赦なく陰茎を擦り付けてくる。最初は戸惑っていたのに、今となっては自ら隆元の頬に陰茎の先を擦り付けてくるようになっていた。
「ふっ、ぐ、んん―――!!!」
 昂揚した元春が一際強く隆元を穿った時、隆元は同時に喉の奥を突かれながら達した。精液はだらだらと零れ続け、隆景の部屋の畳を汚している。それをちらりと視界の端に捕えた隆景の理性の欠片が、脱がされた袴でも下に敷いておけば良かったと思わせる。
しかしそんな隆景を余所に、元春は隆元を追うように兄の体内に精を放った。隆景は元春と自分を繋ぐ唾液の糸を指先で切り、長い射精を終えぐったりとした隆元の口の中から陰茎を取り出し、自らの手で扱き、昂っていた自身をあっさりと解放する。それは元春がしたのと同じように隆元の顔面に精液をぶちまけ、今度こそ禁断の情交を終えたのだった。



「随分と乱暴をするな、隆景…っ」
「最初に誘ったのは隆兄だよ」
 とろとろと肛門から精液を元春に掻き出されながら隆元は悪態を付いた。しかし隆景はまったく気にした様子もなく、さらりとかわして退けた。確かに普段から自分を除け者にして必要以上に仲良くしている弟たちをからかってやろうと先にちょっかいを出したのは隆元だ。「先に誘ってきたのはそちらだ」と言われてしまえば返す言葉もない。
 逆に申し訳なさそうなのは元春で、兄に陰茎を挿入したことで浮気してしまったような気分になり、口付けだけで終わった隆景に悪い、と言った様子で、隆元の肛門から精液を掻き出している。
太い陰茎を受け入れた隆元の肛門は、二本の指を容易に受け入れ、中で曲げて掻き出す度に白く濃い精液が溢れ出す。
「元春、少し溜めすぎてないか?」
 漸く全部掻き出せたと思われる状態まで持って行ったところで、隆元がぱたりと畳に寝転がる。はらり、と捲り上げられた小袖が落ち、隆元の陰部を覆い隠した。その姿がまたいやらしく、二人の情を煽る。
「め、面目ない…」
 また陰茎がその首をもたげる前に、と元春と隆景が慌てて褌を締め直す。幸い二人の袴も褌も汚れずに済んでいるが、問題は隆元だ。隆景が汚れた手で脱がせ、畳に放り出してしまった所為で、精液が所々に付着している。
「どうしようか…これは履いて帰れないな…」
 立ち上がって袴を広げる隆元は、小袖だけという何とも卑猥な格好で、元春は先程までの行為を思い出し目の遣り場に困っていた。そこで隆景は宗勝に見付からぬように侍女を呼び付け、自分の着替えの袴を持ってこさせた。しかし。
「兄上、それでは転んでしまいませぬか…?」
「うーん…やっぱり私の袴じゃ長すぎるね」
 普通に腰で穿いてみたところ、ズルズルと引き摺るような状態になってしまう。隆景の背が高いと言うのも問題なのだが。とにかく隆元は元々童顔な上に袴を引き摺るものだから余計に幼く見える。まさか隆景と十も歳が離れているとは、誰も思わないだろう。隆景が大人びていると言うのもあるが。
 結局胸の下辺りで腰帯を締めて穿き、股立が随分と上の方にあると言う不自然な格好になってしまったがやむを得ない。
「これは見付かる前にさっさと帰ってしまうしかないな」
 隆元が苦笑する。その時後ろに控えた元春が肩元の背中に何かを見付けたようで呼びとめた。
「あ、兄上…その…小袖に我々の唾の染みが…」
「え?」
 振り向いてみても己の背中など見える筈もなく。隆景が慌てて後ろへ回り込むと、袴の帯に掛かる様に白い小袖にじわりと灰色の染みが付いていた。
「仕方ないから、ちょっと不自然だけど肩衣を羽織って帰るよ」
 苦虫を噛み潰したような表情で笑う隆元に、二人は申し訳なさそうに頭を下げた。そんな二人に隆元は照れたような笑みを浮かべて言った。
「二人でばかり話していないでタマには私も話に混ぜておくれ」
 その時、元春と隆景の二人は、兄が何故突然こんなちょっかいを掛けてきたのかを知った。要は淋しかったのだ。うっかり恋人と言う立場に浮かれ、兄の事を疎かにしてしまった事を二人は恥じた。
 そんなこんなで小袖に袴、それに肩衣を羽織っただけという隆元らしくないだらしのない恰好で、元就の待つ本宅へと帰って行った。
門まで見送った元春が隆景に呟く。
「今度は本宅で父上も交えて宴でも興じてみるか」
「いい提案かもね」
 二人は辺りを見回し、誰もいないのを確認すると、そっと口付けた。


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