温もり
「はぁ…」
 隆景が盛大な溜息を吐いた。今日で何度目になるだろう。そんなことを考えていると、宗勝が声をかけてきた。
「隆景さま、どうにかなされませぬか?」
「ん?何が?」
「その溜息、今ので今日12回目です」
 仕事の休憩中の小さな疑問は、律儀な部下のおかげであっさり解決した。
 いくら休憩中とは言え、部下の前であまりだらし無い姿は見せられない。しかし、隆景の憂鬱さには理由があった。つい今朝方まで隆景の屋敷に滞在していた兄、元春が帰ってしまったのだ。
 昨晩の激しい情交が思い出され、身体の芯が疼く。
(乃美君も出てったし…休憩中だし…すぐにイければ…)
 思わず着物の帯を緩める。股間に手を伸ばしかけたその時。
「隆景さま」
「な、何!?」
 宗勝が着物を持ってやってきた。何か着替えでもさせようとでも言うのだろうか。
「おや、お召し替えの最中でしたか?」
「いや、ちょっと横になったら乱れちゃって…で、何かあったの?」
 白々しくわざと緩めた帯を締め直す。あーあ、馬鹿馬鹿しい。なんて頭の中で毒吐いて、宗勝に向き直った。
「吉川殿がお召し物を忘れて帰られたようで、どうしようかと相談にきたのです
が…」
「春兄の…着物…?」
 まさか褌じゃないよね。そんな訳のわからない期待を余所に、宗勝は続ける。
「洗ってから届けさせようと思うのですがいかがでしょう」
「いや、私の所で保管するから持ってきて、すぐに」
 疚しい思いが頭を過ぎる。春兄の匂いに包まれてさっきの続きが出来れば…
「洗わなくてよろしいので?」
「うん、後で私が洗っとく!」
 そのくらい…と言いかけた宗勝を無視して着物をむしり取ると、宗勝の目も気にせず顔を押し付ける。
 クンクンと鼻を鳴らすと懐かしい匂いが鼻腔を擽る。思わず涙しそうになったが、宗勝の存在を思い出し、隆景は慌てて顔を上げた。
「うん、全然臭くないから大丈夫だと思うよ!だからもう下がって」
 何が大丈夫なのか。と、思わず言いたくなるのをぐっと抑え、宗勝は一礼し場を後にした。



 隆景は宗勝の想いを知りながら、兄である元春とまるで恋仲のような振る舞いを平気でする。夜も恐らくは布団の中でまぐわっていることだろう。
 醜い嫉妬と、許されざる感情であることを分かっていながら、宗勝は沸き上がる怒りと理性とを必死で戦わせていた。


 はぁ…乃美君、ゴメン。
「春兄…」
 休憩の間だけ、と人払いをし、部屋を締め切り全裸になると、元春の自分より大きな、だが丈の少し短い着物に袖を通す。前は併せずに首を擡げ始めた隠茎を握り締めた。
「あっ…」
 冷たく冷えていた筈の手が驚く程熱くなっていた。まるで体温の高い元春のように。
「春兄…!」
 足に纏わり付く着物を払うと肛門に手を伸ばす。しかし濡れていないそこは隆景の指を拒んだ。それでも諦めきれずにぐにぐにと押していると次第に全身が熱くなり始め、隠茎が先走りを滲み出し始めた。
「これを…」
 指先に先走りを塗り付け、再度肛門に指を差し込む。すると隆景自身も驚く程簡
単にその指の侵入を許したのだ。だが先走りを塗り付けた指先は入ったものの、そこから先が進まない。
 隆景は自棄を起こして無理矢理指を押し込んだ。
『春兄、痛い!』
『少し我慢しろ』
 情交の際に時折見せる鬼吉川の顔。それを思い出すと、僅かな痛みすら愛おしい。
 指を押し込んだままぐにぐにと体内を押す。そこには小さなしこりがあって、ここが良いのだと言うのを教えてくれたのは宗勝だった。しかし隆景には思い出せない。
 前を扱きながらそこを刺激すると、得も言えぬ快感に襲われる。使い古した着物から微かに香る元春の匂いもそれを助けた。
 夢中になって両手を動かす。絶頂はあっと言う間に訪れた。
「はる…あっ、あ、あぁっ!」



 ほんの少しの時間、くったりと射精の余韻に浸っていたが、時間がないことにはたと気付く。休憩の時間が終われば、きっちりと宗勝が現れる筈だ。
 けだるい身体を無理矢理起こし、さっきまで着ていた自分の着物に袖を通す。袴を穿こうと足を上げた時に、再び下半身に疼きをおぼえたが、もうそんな事を言っている場合ではない。
 慌てて着替えを終え、部屋を換気する。そして精液を受け止めた手を洗いに行こうと部屋を出たところで、運悪く宗勝と鉢合わせてしまうのだった。



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